綺麗な桜の花をみていると
そのひとすじの気持ちにうたれる

桜     八木重吉

入道雲にのって
夏休みはいってしまった
「サヨナラ」のかわりに
素晴らしい夕立をふりまいて

けさ 空はまっさお
木々の葉の一枚一枚が
あたらしい光とあいさつをかわしている

だがキミ! 夏休みよ
もう一度 もどってこないかな
忘れものをとりにさ

迷まよい子のセミ
さびしそうな麦わら帽子
それから ぼくの耳に
くっついて離れない波の音

忘れもの   高田敏子

枯木をゆすりその朱き葉を落す
そのもとにわれはさりえず

なみ立てる枯木は肌にしみてうつり
肌は青くも冷えたり

今しづかにしほらしき心立ち戻り
朱き葉をふどころに去らむとすれば
朱き葉はわが肌になじみえず

朱き葉     室生犀星

上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。

下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。

中の雪
さみしかろな。
空も地面もみえないで。

積もった雪   金子みすゞ