少年が沖にむかって呼んだ
「おーい」
まわりの子どもたちも
つぎつぎに呼んだ
「おーい」「おーい」
そして おとなも
「おーい」と呼んだ

子どもたちは それだけで
とてもたのしそうだった
けれど おとなは
いつまでもじっと待っていた
海が 何かをこたえてくれるかのように

海          高田敏子

水は うたいます
川を はしりながら

海になる日の びょうびょうを
海だった日の びょうびょうを

雲になる日の ゆうゆうを
雲だった日の ゆうゆうを

雨になる日の ざんざかを
雨だった日の ざんざかを

虹になる日の やっほーを
虹だった日の やっほーを

雪や氷になる日の こんこんこんこんを
雪や氷だった日の こんこんこんこんを

水は うたいます
川を はしりながら

川であるいまの どんどこを
水である自分の えいえんを

水はうたいます  まど・みちお

またひとしきり 午前の雨が
菖蒲のいろの みどりいろ
眼うるめる 面長き女
たちあらはれて 消えてゆく

たちあらはれて 消えゆけば
うれひに沈み しとしとと
畠の上に 落ちてゐる
はてしもしれず 落ちてゐる

お太鼓叩いて 笛吹いて
あどけない子が 日曜日
畳の上で 遊びます

お太鼓叩いて 笛吹いて
遊んでゐれば 雨が降る
櫺子の外に 雨が降る

六月の雨     中原中也

雨のおとが きこえる
雨がふっていたのだ

あのおとのように
そっと世のためにはたらいていよう

雨があがるように
しずかに死んでゆこう

雨        八木重吉